読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

映画『おとなり』

クリスマスシーズンなので、恋愛映画を観た。主演は岡田准一さん、麻生久美子さんだった。この作品の麻生さんはとても透明感があり役どころにぴったりだった。他にも谷村美月さんや岡田義徳さんなど自然な演技ができる方ばかりで作品にすぐ入り込むことができた。

ネタバレ注意です。

主人公の七緒は花屋に勤める30代の独身で恋人もいない。麻生さんが等身大のみずみずしい演技をしている。パリにありそうなアパートメントに住んでいる。その隣に岡田准一さん演じる聡が住んでいる。聡はカメラマンだ。そのアパートメントの壁がとにかく薄いので、生活音が筒抜けだ。たとえば聡のコーヒーをひく音や七緒のフランス語の練習の声がお互い聞こえているがそれがなぜか程良い距離感を保っている。私は学生の頃を思い出したがこんな美しい恋愛物にはほど遠かったのがむなしい。

この映画で七緒と聡の仕事に対する考え方にとても共感を覚えた。一見、対照的に見える二人だが映画の終盤に近づくにつれ共通点が見つかる。
七緒は仕事に対してとにかくまっすぐだ。やりたいことをやっていて仕事にプライドを持っている。花がきれいでも葉が枯れていれば迷わず捨ててしまう気の強さがある。さらにフラワーデザイナーの資格(NFD1級)を目指して勉強をし、さらにパリで働くことを想定して毎日フランス語の勉強をかかさない。
一方、聡はカメラマンとして成功しているが本来やりたい風景写真ではなく友人であるモデルの専属カメラマンだ。カナダに風景写真の勉強に行く為に今の仕事をやめるかどうか悩んでいるが、会社のしがらみやモデルである友人の気持ちを考えてしまいなかなか仕事がうまいようにできない。
七緒と聡は、日々の生活音でお互いの存在を意識しているが、なかなか会わない。すれ違い多いがそれがドキドキする。

一番印象的で好きなシーンがある。ある男性(小説家志望の岡田義徳さん演じる氷室)にひどく傷つけられる事件が起こる。耐えきれなくなり仕事を早退し家に帰り語学練習で気を紛らわすが、途中で泣いてしまう。それが隣の聡に聞こえる。すると聡はそっと壁越しに歌を唄う。『風を集めて』という優しい歌だ。それが七緒に聞こえて、七緒も一緒に歌うのだが、そのシーンが泣ける。励まされる。

それでもなかなかまだ二人は顔を会わせないことにもやもやするのだが、偶然が重なりとてもステキな出会いをするが、ここはさすがに言いたくない。絶対に映画で観てほしい。

この映画のテーマが「音」であることが最初にわかるのだが、実はもう一つのテーマの「写真」が隠れていることに最後に気づく。その鍵を握っているのが、七緒をひどく傷つける氷室だ。前半では悪役に見えるので本当に嫌いだったが、ふとあるシーンを思い出す。七緒と氷室の会話の中で「貴重音」という言葉が出てくる。そしてそれを氷室は「無くてはならないもので目に見えない運命のようなもの」と七緒に説明をする。まるで七緒と聡が出会うことを予感させる言葉であると観客は気づく。最初、氷室は一方的に七緒に告白してきて気をひき、無断で小説に七緒を描く。わざと嫌な態度をとり嫌われて、結果的に七緒は夢に向かって進むことになる。一方、聡もあるきっかけで七緒の写真を撮る。花と一緒に写ったとてもきれいな写真だ。二人とも方法こそ違うがファインダーにおさめる。
小説を書く為に私利私欲で近づいたように見える氷室が実は聡の存在や七緒の夢まで知り理解していて、本当に七緒を好きになっていたのではないかと想像させる。こんなに最初からから最後まで、こんなに細かいところまで人の恋愛感情を描いた映画があっただろうか。
自分にとっての「貴重音」、写し出される「写真」は何なのか改めて考えみたくなった。