長い長い殺人

宮部みゆきさんの推理小説長い長い殺人』を読んだ。女性の作家さんの中では一番宮部さんの作品を読むかもしれない。人間の光と陰をうまく表現していて話に深みがあるのがおもしろい。

この『長い長い殺人』では、各章ごとに主人公が変わっていくが、そのナレーションを主人公の財布が財布目線でしていく。

例えば刑事の財布はその刑事を実直であると語る。家族思いで、家族からのプレゼントであるのでボロボロになるまで使っていて、収賄にまきこまれないよう、その現金が自分の中に入らないように願っている。そしてその刑事の財布の中で一番大切に保管されているのは現金ではなく家族写真である。

強請屋の財布は見た目が派手な為、持つ人に恵まれない。汚いお金が入ることを願っていない。そして、事件に巻き込まれないように持ち主をいつも心配している。財布の中には強奪したネックレスが入っている。

少年の財布は少年の純粋さや賢さを自慢に思っている。その後事件に巻き込まれる叔母を心配し危険を省みず戦う姿を近くで見ている。少年の財布には現金はあまり入っておらず、事件の証拠品となるものが入っている。

探偵の財布はその男のことを「私の探偵さん」と呼ぶ。亡くなった妻からプレゼントされた財布で唯一の遺品なので妻と同じように探偵のことを呼び、孤独に生活する男を側で静かに見守っている。探偵の財布には小銭と事件に巻き込まれる依頼者の忘れ物のイヤリングが入っている。

容疑者の旧友の財布は彼の人を信じる心と優しさを自慢に思っている。中学の教師をしているその男は容疑者と幼なじみで人のいいところしか見えていない。それが長所であり短所であるので人に傷つけられないかいつも心配している。財布の中には容疑者の男との親友の証である小石が入っている。

その他、目撃者、死者、証人などの財布が語る。そして犯人の財布はおそろしい人間と認識しながら一生懸命にもともとはいい子だったと主張し事件が早く終わることを望んでいる。

この作品のおもしろさは財布が語ることにより持ち主の本当の欲望は何なのかを読者に問うところにある。まさにお金に執着する登場人物もいればその先にある、お金と人に認知されることに執着する者も出てくる。
自分の財布は自分のことをどう思い、中にある大切なものは一体何なのだろう。

 

長い長い殺人 (光文社文庫プレミアム)

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