ウサギの天使が呼んでいる

青柳碧人さんの『ウサギの天使が呼んでいる/ほしがり探偵ユリオ(創元推理文庫)』を読んだ。
「誰のゾンビ?」「デメニギスは見ていた」「ウサギの天使が呼んでいる」「琥珀の心臓を盗ったのは」「顔ハメ看板の夕べ」の5作品からなる短編集だった。

ネタバレ注意です。

サブタイトルの『ほしがり探偵ユリオ』は主人公のことで〈その謎即刻解決します ただし『お宝』をくれるなら〉と本の帯にあったのでかなり興味を持ってしまい購入した。
主人公の深町ユリオの本業はフリーライターで副業として《ほしがり堂》というサイトを経営している。その《ほしがり堂》というのがマニアでないとなかなかほしがらないもの(作品中ではガラクタと表現している)を方々で集めて、ほしがっている人に適切な値段で売ることを生業としている仕事だ。そしてそのガラクタを集めに行く場所で偶然事件が起こり、そのガラクタの買い取りのために、事件解決をする。これがすごく新しい。

「誰のゾンビ?」では知り合いが経営する〈スーザンズ・ヘル〉という怪奇居酒屋で「ナイト・オブ・ザ・デッド・リビング」というゾンビイベントが行われていてそこにドラキュラの棺桶の買い取りに行くのだけれど、たまたま死人が出てそれを解決する。
デメニギスは見ていた」では〈SUGIアートミュージアム〉の「田」の字形に積まれたスケルト・ンキューブの展示場で殺人事件が起こり事件解決に関わることでゴム製のブロブフィッシュ(オーストラリア産で体のほとんどがゼラチン質)という珍しい魚のサンプルを得る。

大体、ユリオの副業に関した事件が多いのだけれど、「ウサギの天使が呼んでいる」では本業のライターの仕事をしていて事件に巻き込まれる。ここで初めてユリオの仕事の傾向が分かるのだけれど、それが《未解決誘拐事件・決定版》とか《突撃!となりのゴミ屋敷》だったりしてすごく興味をそそられてしまう。そして《突撃!となりのゴミ屋敷》の第二弾で訪れた家が普通のゴミ屋敷ではなく、ユリオからしてみれば宝の山で、昭和の電化製品がたくさん並んだむしろ展示場に見えてその中のものを収集したくなり詳しく調べるところがすごくおもしろかった。昭和を代表するような炊飯器の中から千枚はあるSuicaが出てきたり、最古といわれる電子レンジの中から動物のクッキーの型抜が出てきたりしてまるで自分もそこにいるような気分になってしまう。タイトルの『ウサギの天使』はゴミ屋敷にあるクリスマスツリーに掛かっている人形のことだ。

琥珀の心臓を盗ったのは」では立川ふくふく園という老人ホームに〈オルメカ文明の巨石人頭像の形のジュースサーバー〉を売りに行き、テディベア切り裂き事件に遭遇し「顔ハメ看板の夕べ」ではタイトルどおり「顔ハメ看板」を箱根に住む「顔ハメ大王」と呼ばれるマニアな客に売りに行き死体に遭遇する。
その偶然ありそうでそうそうない事件との遭遇の仕方や妹のさくらとのやり取りがすごくおもしろいので最後まで一気に楽しんで読めた。登場人物をよく観察して推理するような感じで文章もすごく読みやすかった。
青柳さんの他の作品(『浜村渚の事件ノート』など)も探してみようと思う。