お母さん

京都文化博物館で開催中の映画祭『EU FILM DAYS 映画で旅するヨーロッパ』に行ってきた。今日は『お母さん(原題EMA/Mother)』だった。エストニアの映画で日本初上映の作品だった。上映前と後に舞台挨拶があって得した気分になった。
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タイトルだけ見ると普通は優しいとかいいイメージを抱くのだけれど、この作品はおもしろいぐらいそのイメージを壊すかもしれない。

ネタバレ注意です。

舞台はエストニアの田舎町で主役の母親エルサの家と近所ぐらいしか出てこない。これには理由がある。エルサの息子ローリーが植物状態になっていて病院ではなく自宅で療養しているからだ。そして登場人物は家族のエルサの夫やローリーの担当医師や見舞いにくる友人、職場の知人、恋人などだ。ローリーがなぜ植物状態になっているのかはそこに訪ねてくる人物がローリーに語りかける言葉をエルサが盗み聞きする。それを観客が推理してストーリーが展開していく。その展開がびっくりするほど遅い!たずねて来る人物が皆変わっていて、全員があやしく見える。

警察官が訪ねてきて初めて銃で撃たれたことが分かり、その直前に大金が口座から引き出されていたことがわかる。友人や恋人が人目を盗んでローリーの部屋を家捜ししたり、医師は二日酔いで訪問したりする。家族も少し変で、ローリーの父親は外では働いているようだけれど、家の庭の手入れをやたらとエルサに押しつけ、家事や介護にはノータッチだったりするので観ていてイライラした。そんな中エルサは文句ひとつ言わず、完璧にこなす。前半は息子の回復を願ういい母親と感じる。しかし、ローリーの職場(学校というのも会話から分かってくる)の校長がやたらとエルザになれなれしくて二人が不倫関係であることが分かると(これも観客とこの二人しか知らない)ここから、ぐっと怖い話に変わってくる。かなりブラックなミステリーだった。自分的には犯人が誰かということよりも、ローリーの意識がどれほどあるのかが気になった。医師が「手術後意識がもどる時期は過ぎている。耳や目は機能しているかもしれない。」と言う場面があって、お見舞いにくる人物が聞こえていないと思いうっかり正直な気持ちを告白したりするのをローリーはどういう気持ちで見聞きしているのかということに焦点を変えるとまた全然ちがったストーリーに見えてくるような気がした。

舞台挨拶ではプロデューサーのアエト・ライグさんと主役のエルサを演じたティーナ・マルベルグさんの話が聞けた。
舞台になったエルサの家は旧ソ連の80年代ぐらいの家をイメージして建築した実在の家でこの家の持ち主が作品の冒頭のバス停のシーンに出演していることやカラフルな映画ではないので、エルサの周囲にある花にスポットライトをあてて色を持たせたことや、ロケ日数はわずか16日だったことやアエトさんがプロデューサーの仕事だけでなく、一人10役(キャスティングなど)ぐらいしたことなど興味深い話ばかりだった。この作品は40ぐらいの映画祭で上映された話題作で米アカデミー賞でも外国語の作品でエストニア代表として出展したようだ。衝撃的な『お母さん』を演じたティーナ・マルベルグさんもエストニアアカデミー賞と呼ばれる映画祭では最優秀女優賞を受賞したらしい。

質疑応答のコーナーもあって、エストニア映画の『こころに剣士を』(私も大好きな感動作)に比べるとちょっとショックだったという意見があったりして、ブラックユーモアが利いた作品(アエトさんはそういうシーンもありますと言っていたけど)と感じるかどうかはその人次第かもしれない(私は全然笑えませんでした・・)。一般公開はあるかどうかは分からないけれど、明日(6/9)東京国立美術館フィルムセンターでも上映があるようなので興味がある方は是非!