BAR追分

伊吹有喜さんの『BAR追分(ハルキ文庫)』を読んだ。伊吹さんの作品はこれが初めてだったけれど、以前からそのタイトルに惹かれて気になっていて一気に数冊買ってしまった。そのうちの一冊なのだけれど、この『BAR追分』というのは新宿の追分にあるバールの名前である。新宿三丁目の交差点あたりの細い路地追分の〈ねこみち横丁〉にある飲食店〈BAR追分〉の話だった。東京に住んでいた時に一番通ったのはこの界隈だったので、なんだか懐かしい気持ちになった。追分交番や追分だんごや伊勢丹はほぼ毎日目にしたので読んでいて映画を観ているぐらい風景が浮かんだ。そして飲食店が主な舞台でそこで出される料理が丁寧に描かれていてお腹が空いてしまう。ねこみち横町というのはその界隈に地域猫がいるのでそう呼ばれているという設定だった。そして、登場人物は〈BAR追分〉の経営者とそに通ってくるお客さんやそこの商店街の人で4話の短編集になっている。ちょっと『深夜食堂』を思い出した。〈BAR追分〉は昼はバールで夜はバー(そもそもどっちにも読める)なので、昼ランチにくる人と夜飲みにくる人両方出てくる。

ネタバレ注意です。

〈第1話スープの時間〉では突如として仕事と住居を失ってしまった30才の男性の宇藤がこのねこみち横丁の振興会専従職員に勧誘話だった。住むのは〈BAR追分〉の二階で給与は5万円だけれど、まかない飯つき住宅費タダと言われて悩む話だった。仕事内容は地域猫(デビィという黒猫)の世話やHPの原稿書きと更新が主な仕事と言われる。夢があるような無いような自分だったらやるだろうかと本気で考えてしまった。

〈第2話父の手土産〉では〈BAR追分〉をバーとして長年使っている常連客が、娘を初めて店に連れてくる話だった。この店で出されるサンドを手土産にいつもしていたのだけれど、娘が結婚するにあたって店内で食べさせたいと連れてくる。娘を嫁にやる父親の繊細な気持ちをサンドやお気に入りお酒で描写していてそれがすごくせつなかった。

〈第3話幸せのカレーライス〉では自動販売機の補充をするルートマンがカレーの匂いに誘われ〈BAR追分〉のランチメニュー「牛すじカレー温玉のせ」を目にして飛び込みで入ってくる。カレーに何をトッピングするのが一番なのかとか、好きなアイドルの総選挙で推しが上位を取った時こそカツをのせるなどいろいろ考えるのだけれど、つい自分もトッピングを考えてしまった(私はトッピングはチキンカツが好き。とくにげんかつぎはしないけれど)。

一番面白かったのは〈第4話のボンボンショコラの唄〉でこの界隈で商売をしている人の恋愛を描いていた。それが、大人の恋愛なんだけれど、ピュアでかわいい。フィギュア作家というより人形作家である梵さんとゴージャスと呼ばれるクラブのママをしている美女との恋愛で二人は近いところに居場所があるのに〈BAR追分〉でしか合わない。それがいじらしくてかわいい。

短編集ということもあってどの話もすごく読みやすくて、すっかり伊吹さんのファンになってしまった。他の作品も読みたいと思う。

 

BAR追分 (ハルキ文庫)

BAR追分 (ハルキ文庫)

 

 

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