情熱のナポリタン

伊吹有喜さんの『情熱のナポリタン BAR追分(ハルキ出版)』を読んだ。大好きな『 BAR追分』『オムライス日和』の続編だ。全作同様に新宿〈ねこみち横丁〉という商店街を舞台にした短編集で前の二作に登場した人物がBAR追分の常連客になっていて何だかうれしかった。もちろん新しく登場する人が新宿という場所柄有名人だったりして、主役の宇藤輝良が話しかけられたりする場面では自分のことのようにどきどきしてしまった。新宿三丁目に昔の勤務先があって通勤時やお昼休み、時には職場にもちょっとした有名人がふらっと現れたりすることが実際にあったのでそれを思い出した。
今回もおいしそうなタイトルがついた第4話で構成されていた。

〈第一話 お好み焼き大戦〉ではBAR追分に集まった人達が粉ものについて討論する。大阪と広島のお好み焼きの違い、大阪ではごはんといっしょに食べることがあるが、広島ではそばが中に入るからごはんいらずだとか、東京のもんじゃ焼きはそもそもおかず的じゃないとかそういううんちくがおもしろい。そこに居合わせた客の佐田辰也が自分の好きな思い出のお好み焼きを思い出す話だった。

〈第二話 秋の親子丼〉ではBAR追分に劇団『演劇屋花嵐』主催で劇作家の桜井義秀が現れて、ことのなりゆきから宇藤くんのコンクール用のシナリオを読むことになる。若くて宇藤くんと年も変わらない成功者に、かなり偉そうに意見を言われてムカッとする宇藤くんが目に浮かぶようだった。そしてバーで働く伊藤くんがもともとこの劇団にいて、主催から帰ってきて欲しいと言われて少し迷惑していることが『オムライス日和』よりさらに掘り下げられている。ちなみに秋の親子丼とは秋鮭とイクラの海の親子丼のことだった。

〈第三話 蜜柑の子〉ではBAR追分で商店街の会長の遠藤に頼まれて就学前の子供の柊をあずかることになる。無口で食べ物を口にしない柊が二日間の間に心を少し開いて桃子の料理をおいしそうに食べてと宇藤と一緒に過ごす姿にほっこりを越えて涙してしまった。ここで出てくるおいしいものは柊がすきなメロンパンの中で一番という新宿高野のメロンパンでそれを『ごほうびメロンパン』と呼んでいる。実際にあるのかちょっと分からないけれど食べてみたかった。

〈第四話 情熱のナポリタン〉では宇藤くんが『演劇屋花嵐』の脚本部に破格の給与でにスカウトされて悩む話が中心だった。昔そこにいた伊藤君に話を聞き劇団の実体を知ることになる。宇藤くんがどうするのか気になりすぎてハラハラしてここが一番おもしろかった。ここで出てくるおいしいものはタイトル通り『情熱のナポリタン』で鉄板焼き屋さんの空開に作ってもらうのだけれどこれがケチャップとウスターソースにプラス赤とうがらし、糀、塩と柚子で作った発酵調味料を混ぜてつくる。味に広がりが出るというこの調味料がすごく気になった。そして『ナポリタン』はイタリアにはなく日本発祥というのは聞いたことがあるけれど、横浜が発祥地というのは知らなかったので勉強になった。

『BAR追分』のシリーズ三冊全部読み終わってしまったので少しさみしい。続編がすごく読みたい。読みなおして登場する料理を作ってみるのも楽しいかもしれない。 

情熱のナポリタン―BAR追分 (ハルキ文庫)

情熱のナポリタン―BAR追分 (ハルキ文庫)