淵に立つ

映画『淵に立つ(2016年公開)』を観た。日本とフランスの合作映画だった。監督は深田晃司さんで過去の作品では『さようなら』『歓待』などがあるが私はこの作品が初めてだった。浅野忠信さん、筒井真理子さん、古舘寛治さん、大賀さんなどが出演している。

ネタバレ注意です。

舞台は下町であることしか分からない。筒井真理子さんが演じた鈴岡章江と古舘寛治さん演じた鈴岡利夫は夫婦で金属加工の工場を営んでいる。一人娘の蛍がいて一見幸せそうな家族だ。そこに突然浅野忠信さんが演じる八坂草太郎が現れて仕事を手伝いはじめる。しかも住み込みで。章江には全く相談もない。3ヶ月という約束ではあるけれど全然知らない人が転がりこむとなると普通は家族間でもめると思うがこの鈴岡家は住まわせる。冒頭から違和感がすごい。

利夫が寡黙で夫婦の会話も少ないせいでこの八坂という男の正体がなかなかつかめない。礼儀正しく、身なりがきちんとしていて、章江や蛍への気遣いがあって、利夫に比べると格段に感じがいいのでだんだん章江と蛍はこころを許していく。夫が務めるべきことでも八坂が前にでるようになったりしても利夫はなにも行動を起こさない。ここが一番の謎で観客は色んな想像を巡らせると思う。

一人家族が増えて賑やかになったみたいな明るい話ではなくて少しずつ家族の絆にほころびができていく話だった。利夫はあまり自分を語らないけれど八坂は自分をすごく正直に語り正体が分かるのだけれど、利夫と八坂、章江が同時に深い話をしない。観客的には利夫と八坂、八坂と章江、利夫と章江の関係をうっすら理解するが本人達は同時に真相に触れようとしないので年月をいくら経ても謎が謎のままという状況がすごく不思議で自分も関係者一員のような気持ちになって観てしまった。それがこの作品のおもしろさでもある。

ある一枚の家族写真が鍵になっていて作品の中でまったく同じ構図のシーンがある。そのシーンを観たときに「家族っていったい何だろう」と問いかけている自分がいてこの作品の本当の怖さみたいなものを感じた。

 

淵に立つ

淵に立つ