僕は君を殺せない

長谷川夕さんの『僕は君を殺せない(集英社オレンジ文庫)』を読んだ。長谷川さんの作品は初めてだったけれどすごく個性的でファンになってしまった。『僕は君を殺せない』の他、『Aさん』と『春の遺書』の短編を読むことができる。三作品にはつながりがないけれど順番に読むことで徐々に気持ちが高揚するような構成になっている。
ジャンルは推理小説だが、長谷川さんの作品はちょっと変わっていて推理する箇所が今まで読んできたものとはまったく異なっていて三作品とも読み終わったあと必ず読み返してしまった。最近読んだ麻耶雄嵩さんの『神様ゲーム』も読み返したけれど読み返す理由が根本的に違う。一度読んでなっとく!みたいなすっきり感がなく、あれ?と気づいてからがおもしろい。

ネタバレ注意です。

〈僕は君を殺せない〉の主人公はには名前がない。語り部でもあるので「おれ」とか「僕」とかいう感じで語られる。おそらく主人公である「僕」は高校生で一人暮らしできれいな彼女がいて一見普通。たまにその彼女に腕枕をしながら今は廃墟になった遊園地で起きた怖い都市伝説的な話をしてあげたりして仲睦まじい。そして「おれ」もたぶん高校生だろう。夏に友人の代わりにバイトをしてそれがミステリーツアーに参加するバイトでその旅行先でツアー参加者全員をねらった殺人事件に巻き込まれる。このへんはアガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』にちょっと似ている。最後の方まで「僕」と「おれ」が誰なのかわからない。私はけっこうぼんやり読んでいたので途中まで「僕」と「おれ」の違いがわからなくて同一人物かと思ったぐらいだ。この二人が誰なのかを推理することですべて謎がとける。これがなんともいえずおもしろくて、誰か分からないからその人の気持ちになってみようと感情移入して読んでしまう。不思議な気分だった。
〈Aさん〉も主人公の名前は分からない。主人公はお風呂の掃除をしていて掃除をしながら子供の頃にあったことを回想する。その回想にも名前のない主人公がいて仮に「Aさん」としようと言う感じで50代ぐらいの女性の話が始まる。その話がかなり怖くて最初気づかないけれど2回目読んだ時にもっと怖いことが隠れていることに気付いてぞっとした。
〈春の遺書〉はすこしファンタジーな話だった。この話だけは登場人物がはっきりしている。はっきりしていないところはどこか強いていえば「それ」である。主人公がある日謎の死をとげた祖父の弟の康二郎の幽霊を見て金縛りにあう。その幽霊が探しているものは何かそしてなぜそれを探しているのかを推理していく話だった。主人公の若葉と叔父の接点が祖父でその祖父とも疎遠だった為接点が少ない。ほぼ一から探し推理するので感情移入しやすい。
三作品ともおすすめだ。こんなに気持ちを込めて読んだのは久しぶりだったのでとても満足した。

 

僕は君を殺せない (集英社オレンジ文庫)

僕は君を殺せない (集英社オレンジ文庫)